はじめに:Excelの「メモ」と「コメント」で発生する厄介なトラブル

Excel(エクセル)でデータの引き継ぎや備忘録を残す際、セルに小さな吹き出しを追加できる機能は非常に重宝します。しかし、昨日まで表示されていたはずの吹き出しが突然消えてしまったり、「画面には表示されているのに、いざ印刷しようとすると印刷プレビューに表示されず紙に印字されない」といったトラブルに悩まされる方は非常に多いです。

実は、近年のExcel(Microsoft 365やExcel 2019以降)では、この機能に関して非常に重要な仕様変更と「名称変更」が行われました。この変更を理解していないと、設定画面で目的の項目を見つけられず、迷子になってしまいます。

本記事では、Excelのセルの吹き出しが消えてしまう原因から、画面通りに印刷するための正しい設定手順、さらには画面外の遠くへ飛んでいってしまった吹き出しをマクロ(VBA)で一瞬にして元の位置に戻す裏技まで、4000文字以上の圧倒的なボリュームで網羅的かつ詳細に解説します。

目次

1. 【重要】Excelの「コメント」と「メモ」の決定的な違い

トラブルの解決に入る前に、大前提として知っておかなければならないのが「名称の変更」です。従来、Excelユーザーが「コメント」と呼んでいた黄色い付箋のような吹き出し機能は、現在のExcelでは「メモ」という名称に変更されています。

現在のExcelにおける2つの機能

  • メモ(従来のコメント):セルの右上に「赤い三角マーク(インジケーター)」が付きます。マウスカーソルを合わせると、黄色い四角形の吹き出しが表示されます。単なるテキストの備忘録を残すための機能です。
  • コメント(新しいスレッド形式):セルの右上に「紫色の吹き出しマーク」が付きます。他のユーザーとチャットのように返信し合ったり、解決済みにしたりできるコミュニケーション用の新機能です。

本記事で「黄色い吹き出しが消えた」「印刷できない」というトラブルの対象となるのは、主に前者の「メモ(旧コメント)」です。設定画面を開いた際に「メモ」という文字を探す必要があることを念頭に置いて読み進めてください。

2. メモ(旧コメント)が表示されない・消えた4つの原因と直し方

セルの右上に赤い三角マークがあるのに、マウスを乗せても黄色い吹き出しが出ない、あるいは赤い三角マークすら消えてしまった場合、以下の4つの原因が考えられます。

原因1:表示設定がオフ(なし)になっている

Excel全体のオプション設定で、インジケーターやメモを表示しない設定になっている可能性があります。

  • 画面左上の「ファイル」タブをクリックし、左下にある「オプション」をクリックします。
  • 「Excelのオプション」画面が開いたら、左側のメニューから「詳細設定」を選択します。
  • 画面を少し下にスクロールし、「表示」というセクションを探します。
  • 「コメントのあるセルに対して示す内容」という項目を確認します。
  • ここが「コメントとインジケーターなし」になっていると何も表示されません。「インジケーターのみ、およびポイント時にコメントを表示」を選択して「OK」をクリックしてください。

原因2:オブジェクトの非表示ショートカットを誤爆している

「ある日突然、シート内のすべての図形やグラフ、そしてメモの吹き出しが一切表示されなくなった」という場合、ショートカットキーの誤操作が原因である確率が非常に高いです。

Excelには、図形などのオブジェクトを一括で非表示にする「Ctrl + 6」というショートカットキーが存在します。文字入力中に誤ってこのキーを押してしまうと、すべてのメモが見えなくなります。
【直し方】キーボードの「Ctrl」キーを押しながら「6」キーをもう一度押してください。これだけで魔法のようにすべての吹き出しが復活します。

原因3:セルの行や列が非表示になっている

メモが挿入されているセル自体を含む行や列が、フィルター機能や手動操作によって「非表示」にされている場合、当然ながらそのセルに付随するメモも表示されません。行番号や列番号が飛んでいないか(例:A列の次がC列になっている等)を確認し、非表示を解除してください。

原因4:セルの挿入・削除によって吹き出しが画面外(はるか彼方)に飛んでいった

長年使い回しているExcelファイルで最も多いのがこの現象です。メモの吹き出しは、Excelのシステム上は「図形(シェイプ)」として扱われています。
そのため、セルの挿入や削除、行の高さの変更を何度も繰り返しているうちに、親となるセルから吹き出しだけが取り残され、何千行も下の画面外に移動してしまったり、サイズが極小(点のように)なってしまったりすることがあります。この現象の解決策については、後述の「第6章:マクロ(VBA)で戻す方法」で詳しく解説します。

3. 常に表示する・すべてのメモをまとめて表示する設定

マウスを乗せた(ホバーした)時だけでなく、常に吹き出しを開いたままにしておきたい場合の設定手順です。この操作は、後述する「画面通りに印刷する」ための必須条件でもあります。

特定のメモだけを常に表示する

  • メモが設定されている(赤い三角マークがある)セルを右クリックします。
  • メニューから「メモの表示/非表示」(古いバージョンの場合は「コメントの表示/非表示」)をクリックします。
  • これでマウスを離しても吹き出しが常に表示された状態になります。元に戻したい場合は、再度右クリックして「メモを表示しない」を選択します。

シート内のすべてのメモを常に表示する

  • 画面上部の「校閲」タブをクリックします。
  • 「メモ」というボタン(または「コメント」グループの中)をクリックします。
  • ドロップダウンメニューから「すべてのメモを表示」をクリックします。
  • シート内に存在するすべてのメモが一斉に表示されます。もう一度押すとすべて非表示に戻ります。

4. 新機能「コメント(スレッド形式)」が表示されない場合

紫色のマークが付く新しい「コメント」機能が見当たらない、または表示されない場合の設定です。新しいコメントは黄色い吹き出しではなく、画面右側の専用の作業ウィンドウ(ペイン)に表示されます。

  • 紫色のマークがあるセルをクリックします。
  • 「校閲」タブを開き、「コメント」グループにある「コメントの表示」ボタンをクリックします。
  • 画面の右側に「コメント」という縦長のパネルが出現し、誰がいつどのようなコメントを残したのか、スレッド形式で確認することができます。

5. メモやコメントが印刷されない!正しい印刷設定手順

Excelの初期設定では、画面上にメモやコメントが表示されていても、印刷時には一切印字されない仕様になっています。これを印刷するためには、ページ設定から特別な指示を出す必要があります。

また、ここで前述の「メモ」と「コメント」の違いが大きく影響します。設定には「画面表示イメージ(メモのみ)」と「シートの末尾」の2種類があります。

方法A:画面の見た目通りに吹き出しを印刷する(※メモのみ対応)

セルを指し示す黄色い吹き出しを、画面で見ている配置のまま紙に印刷したい場合の手順です。新しいスレッド形式の「コメント」はこの方法では印刷できません。

  • 【大前提の準備】
    印刷したいメモが常に画面に表示されている状態にしてください。(前述の「すべてのメモを表示」などを使い、吹き出しが出っ放しの状態にする必要があります。マウスホバー時しか出ない状態では印刷されません)
  • 画面上部の「ページレイアウト」タブをクリックします。
  • 「ページ設定」グループの右下にある、小さな矢印のアイコン(ダイアログボックス起動ツール)をクリックします。
  • 「ページ設定」ウィンドウが開いたら、一番右にある「シート」タブをクリックします。
  • 「印刷」セクションの中にある「コメントとメモ」のドロップダウンリストをクリックします。
  • 「画面表示イメージ (メモのみ)」を選択します。
  • 「印刷プレビュー」ボタンを押し、吹き出しが正しく表示されていることを確認してから印刷を実行します。

方法B:シートの末尾に一覧としてまとめて印刷する(メモ・コメント両方対応)

吹き出しが文字やデータの上に重なって見えなくなるのを避けたい場合や、新しいスレッド形式のコメントも印刷したい場合は、シートの最後のページに一覧表として別紙で印刷する方法を使用します。

  • 「ページレイアウト」タブ > ページ設定の右下矢印 > 「シート」タブ を開きます。
  • 「コメントとメモ」のドロップダウンリストから、「シートの末尾」を選択します。
  • 「OK」をクリックして印刷プレビューを確認すると、データが印刷された次のページに、「セル番地」「作成者」「入力内容」がリスト化されて印字されるようになります。

6. 【上級編】画面外に飛んで消えたメモを元の位置に戻すマクロ(VBA)

「すべてのメモを表示」にしたのに、画面のどこを探しても吹き出しが見当たらない、または線だけがはるか彼方へ伸びている場合、行の挿入・削除の繰り返しによってメモの図形座標が壊れてしまっています。
これを手作業で1つずつ元のセルまでドラッグして戻すのは、気の遠くなるような作業です。以下のマクロ(VBA)を使用すれば、シート内のすべてのメモの吹き出し位置を、対象セルのすぐ右上に一瞬でリセットできます。

メモの位置とサイズを一括リセットするVBAコード

以下の手順でマクロを実行してください。

  • Excelを開き、キーボードの「Alt」キーを押しながら「F11」キーを押して、VBAエディタを起動します。
  • 上部メニューの「挿入」>「標準モジュール」をクリックします。
  • 表示された白いウィンドウ(コードウィンドウ)に、以下のコードをコピーして貼り付けます。
Sub ResetMemoPositions()
    Dim cmt As Comment
    Dim count As Integer
    count = 0

    ' 現在開いているシート内のすべてのメモ(旧コメント)をループ処理
    For Each cmt In ActiveSheet.Comments
        With cmt.Shape
            ' メモの吹き出しの縦位置を、親セルの上端から少し上に配置
            .Top = cmt.Parent.Top - 5

            ' メモの吹き出しの横位置を、親セルの右端から少し右に配置
            .Left = cmt.Parent.Left + cmt.Parent.Width + 5

            ' メモの吹き出しのサイズを標準的な大きさにリセット(必要に応じて変更可)
            .Width = 120
            .Height = 60
        End With
        count = count + 1
    Next cmt

    ' 完了メッセージの表示
    If count > 0 Then
        MsgBox count & " 個のメモの位置とサイズをリセットしました。", vbInformation
    Else
        MsgBox "このシートにはリセット対象のメモが見つかりませんでした。", vbInformation
    End If
End Sub
  • コードの中(どこでも可)をクリックしてカーソルを置き、キーボードの「F5」キーを押して実行します。
  • 完了メッセージが表示されたらExcelの画面に戻り、「すべてのメモを表示」にして、正しい位置に戻っているか確認してください。

※補足:内部的なプログラム(VBA)においては、互換性を保つために従来の「メモ」が Comment オブジェクトとして扱われ、新しいスレッド形式の機能は CommentThreaded オブジェクトとして区別されています。上記のコードは「黄色い吹き出し(メモ)」の位置を直すための専用コードです。

7. 不要になったメモ・コメントを一括削除する方法

他の人から受け取ったファイルで、不要なメモやコメントが大量に残っており、一括で消去してファイルを綺麗にしたい場合は、以下の手順で一掃できます。

ジャンプ機能を使って一括削除する手順

  • キーボードの「Ctrl」キーを押しながら「G」キーを押し、「ジャンプ」ダイアログボックスを開きます。
  • 左下にある「セル選択」ボタンをクリックします。
  • 「選択オプション」画面が開いたら、左上の「コメント」を選択して「OK」をクリックします。
  • これで、シート内のメモやコメントが含まれるセルだけがすべて選択された状態になります。
  • 画面上部の「ホーム」タブを開き、右側にある「クリア(消しゴムのアイコン)」をクリックします。
  • メニューから「コメントとメモのクリア」をクリックします。

これで、シート内のすべてのメモとコメントが完全に削除され、ファイルサイズも軽くなります。

8. まとめ

Excelのセルに付加するメモやコメントは便利な機能ですが、バージョンアップによる名称変更や、Excel特有の「図形オブジェクト」としての仕様が絡むため、トラブルが起きやすいポイントでもあります。本記事の重要なポイントを再度まとめます。

  • 現在のExcelでは、従来の黄色い吹き出しは「メモ」、新しい紫色のスレッドは「コメント」と明確に区別されている。
  • 突然すべて消えた場合は、ショートカットキー「Ctrl + 6」を押してしまった可能性が高い。
  • 画面通りに印刷したい場合は、必ず「常に表示」状態にしてから、ページ設定で「画面表示イメージ」を選ぶ。
  • 遠くに飛んでいってしまった吹き出しは、手作業で戻さずVBAを使って一瞬で位置をリセットする。

これらの仕組みと対処法を正しく理解しておけば、今後メモやコメントに関するトラブルで時間を無駄にすることはなくなります。ぜひ、日々の業務の効率化にお役立てください。